光合成をするバクテリアを用いて「生命が自発的にリズムやカタチを作りあげるメカニズム」の研究をしながら,抽象的な切り絵を用いた立体表現や,生物・細胞などを用いたアート(バイオメディア・アート)を手掛けている。サイエンスを学ぶ学生・研究員と,何らかの形で生命・生物学に興味を持つアーティストが混在する生命美学プラットフォームmetaPhorestを運営。
作品
『流動的多様体III』 / metamorphorest III(2012年改作)

( ミクストメディアによるインスタレーション,紙,シアノバクテリア,アクリル,培地,ゲルライト,ガラスフラスコ,LED,映像メディア)
芸術を語ることの可能性/不可能性と,生命を語ることの可能性/不可能性は,かなりの程度パラレルではないか。日常言語としての,あるいは文化的概念としての生命について,自然科学的に迫ること,それを問わずして生きること,そして芸術の本分として迫ることが,流動的に相互参照・相互反転するような生の世界。眩暈をもよおすようなこの迷宮を,生きつつ記述しようと試みること。僕にとって,バクテリアの研究,切り絵作品の創作,生物・生物学を用いた表現の可能性の探究,それらは生命への,いくつかの限定された,あまりに恣意的なアプローチに過ぎない。
幼少期から切り絵を作ってきた。切り絵はシンプルな技芸だ。紙と刃物があれば誰にでもできる。どの展覧会に出しても,僕の作品の原価は大抵一番安い。その切り絵の王道・本質とは何か。切り絵でなくては出来ぬこととは何か。それを通して何か一般的な表現行為たるには何が必要なのか。たとえば,そのシンプルさを研ぎ澄ましていくこと。二次元性ではなく,紙の三次元性を意識すること。台紙への貼り付けはそれを殺す。刃物以外の描画メディアの影響を避けるために下書きを廃する必要がある。いわば,刃物で即興的にオエカキをするのだ。子供のオエカキと大差ない。ただ,大きく違うのは「時間」だ。やたらに時間を喰う即興。決して瞬発的ではない。滅法不自由な技法でもある。何しろ簡単にちぎれる。肉体は常に緊張を迫られる。にもかかわらず,それと引き換えの圧倒的な自由が支配する。たぶん,それは舞踏などの身体技芸に通ずる感覚かもしれない。
言うまでもなく,生命は多義的で流動的で多様だ。だから,それへの迫り方,感得のされ方は,生命の拘束の範囲内で圧倒的に自由である。自由だということは,白紙に向き合う,あまりにも茫漠とした不安と恐怖を引き受けるということでもある。それは,切り絵をしているときに常に向き合う感覚と重なる。僕の切り絵のプロセスだけでなく,テーマの一つは,(そう観ることを強要するつもりはないけども)そこにある。少なくとも,そこを離れて切り絵を刻むことは,ない。だから,今回の僕の展示は,バイオメディアではなく,敢えて切り絵作品を中心に置く。
ただ,早稲田に着任後,大学構内で生まれたシアノバクテリアを使った表現のプロジェクトもいくつか配置する。シアノバクテリアを使っている作品は,僕の場合,科学研究と対になって相互参照しながら創っていることが多い。それが,全体として切り絵という行為と物体と関連を持つ。僕にとっては自然なことだ。だが,「自然に両立」しているわけではない。場合によっては激しく相互を糾弾しあう。融合などあり得ない。が,完全なる分離もあり得ない。メビウスの輪を,ウロボロスとして生きるしかない。
metamorphorest in Linz (2010)

(紙,鏡,バクテリアの映像,10年,Wünsch画廊,リンツ,オーストラリア)
Cyano-Bonsai Project (2009-)

(シアノバクテリア)
Boundary face (2010)

(インスタレーション,東京大学近代医学記念館)
Photoautotropica (2011-2012)
(シアノバクテリア,ゲル,映像,水,ガラス,岡本太郎美術館)
An der schönen regenbogenfarbenen Dona (2010)

(ドナウ川から採取したバクテリア,水,培地,ゲル, アルス・エレクトロニカ・センター)
略歴
- 1971 東京に生れる。1978年から切り絵を始める。
- 1999 名古屋大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)
- 2000 名古屋大学大学院理学研究科助手
- 2005 早稲田大学先進理工学部准教授
- 2007~ 科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任)
- 2008~ 研究室内にBiological/biomedia artのためのプラットフォームmetaPhorestを設置
- 2010~ Synthetic Aesthetics メンバー
主な展示
- 2012 “4th State of Water / from Micro to Macro”展(トルン現代美術館,ポーランド)、国際科学芸術祭(北京科学博物館)
- 2011 岡本太郎生誕100周年記念『虚舟』展(川崎市岡本太郎美術館)、「バイオメディア・アート公開ワークショップ」(東京藝術大学)、東京デザイナーズ・ウィーク2011(東京)
- 2010 オーストリア・ライトアート・ビエンナーレ(リンツ)、オランダ・ペーパービエンナーレ(ライスヴァイク美術館,ハーグ)、アーティスト・イン・レジデンス+個展開催(Wuensch画廊,リンツ)
- 2009 ハバナ・ビエンナーレ(ハバナ,キューバ)、SICF(スパイラル,東京)、MAKE TOKYO MEETING 2009(東京)、サイエンスアゴラ2009(日本科学未来館,東京)
- 2008 SICF(スパイラル,東京)
- 2004 メディアセレクト展(名古屋大学,名古屋市)、とよた美術展(豊田市美術館,豊田市)
Selected papers
Art
- 岩崎秀雄(2011)「バイオメディア・アート:生命と芸術の臨界面を巡って」『実験医学』,29 (7)増刊,1188-1196
- 岩崎秀雄(2011)「複眼的バイオロジー・アートのススメ:科学者×アーティストのお仕事」『新鐘』77: 79-80
http://www.f.waseda.jp/hideo-iwasaki/shinsyo2010iwasaki.pdf
- 岩崎秀雄(2010)「バイオメディア・アート 合成生物学の美学的可能性について」『科学』(岩波書店)7月号 pp.747-754
http://www.f.waseda.jp/hideo-iwasaki/iwasaki_kagaku2010_biomediaart_paper.pdf
- 久保田晃弘・岩崎秀雄(2009)『バイオメディア・アート』多摩美術大学論集24
http://www.f.waseda.jp/hideo-iwasaki/kubota_iwasaki_biomediaart2009.pdf
- Hideo Iwasaki (2009) “Biomaterial Art Project Combining Bioscience Research and Contemporary Art.”
www.waseda.jp/advmed/english/invents/pdf/01IWASAKI_low.pdf
Biology
- Nakajima et al. (2005) “Reconstitution of circadian oscillation of cyanobacterial KaiC phosphorylation in vitro” Science 308: 414-415
- Tomita et al. (2005) “No transcription-translation feedback in circadian rhythm of KaiC phosphorylation.” Science 307: 251-254
- Ito et al. (2009) “Cyanobacterial daily life with Kai-based circadian and diurnal genome-wide transcriptional control inSynechococcus elongatus“ Proc. Natl. Acad. Sci. USA106:14168-14173
- Hosokawa et al. (2011) “Circadian transcriptional regulation by the posttranslational oscillator
- without de novo clock gene expression in Synechococcus“ Proc. Natl. Acad. Sci. USA, in press
- Asai et al. (2009) “Cyanobacterial cell lineage analysis of the spatiotemporal hetR expression profile during heterocyst pattern formation in Anabaena sp. PCC 7120” PLoS ONE, 4(10): e737