石川 智章

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作品

二母性マウスにおける生命倫理 (2012)

本来,哺乳類が子孫を残すには精子と卵子が受精しなければならない。しかし,現在マウスを用いて同性から子孫を生み出す技術が確立されつつある。その技術は将来家畜などの有用動物をはじめとする哺乳類全般への応用を目標としているが,哺乳類全般であるならばヒトへの応用も考えられる。よって,その技術のヒトへの応用が社会的,倫理的面から実現可能か否かを考察する。

 2007年,東京農業大学の河野教授らは世界初の二母性マウスについての論文を発表し,世間を騒がせた。それにより,同性である雌同士で子供を作るという,今までSFでしかなかった話が現実のものとなった。子を作る際,子は父方と母方から染色体を受け継ぐが,その染色体のゲノム構成は同じである。しかし,そのDNAはメチル化という後成的な修飾を受けており,それによって父方由来と母方由来では決定的に違う役割を演じるように仕組まれている。そのような仕組みをゲノムインプリンティングと呼ぶ。二母性マウスでは,卵子ゲノムを2つ用意し,そのうちの片方のゲノムのインプリンティングを雄型に改変し,1つの卵子に組み込むことにより,そこからの発生を可能とした。この技術は雌のみで子を作ることから単為生殖,単為発生とも呼ばれるが,従来の単為生殖とは大きく異なる。単為生殖とは本来,働き蜂などに見られるように一匹の雌が受精を経ることなしに子供を作ることだが,その場合一匹の遺伝子しか受け継がないことからクローンか,クローン個体と近親交配を行ったのと同じ結果となる。それに対し,二母性マウスの技術によって生まれた子は卵子を提供した2個体の遺伝子を受け継ぐこととなる。この技術は哺乳類における有用動物の育種や,ゲノムの解明など様々な方面へ貢献する研究であるが,ヒトへの応用に関して河野教授は「許されないことは当然で,考えていないし,技術的にも全く不可能である」と述べている。マウス以外の哺乳類への応用を考えているのであれば,それが成功した時,ヒトへの応用も可能になるのではないだろうか。

 また遺伝子操作に関する生命倫理としては,生殖系列細胞の遺伝子の改造は許されていない。体細胞に必要な遺伝子を導入する遺伝子治療の場合は,その治療対象となった個人に影響を与えるだけであるが,生殖系列細胞の遺伝子を改造してしまうと,その影響は子孫全体まで広がることから今の段階では禁止した方がいいとされている。遺伝子配列を改変するわけでもなく,またその代以降に影響のないゲノムインプリンティングに関しては果たしてそれがどのように適用されるのであろうか。

 以上のような問いに加え,生命を創り出すということ,性別の意味など,様々な社会的,倫理的問題が考えられる。女性同士で子供を作れるようになるということはどのような意味を持つのだろうか。

経歴

  • 1989 出生
  • 2012 早稲田大学先進理工学部電気・情報生命工学科所属